2011年春季低温工学・超電導学会 セッション報告

5月18日(水)
A会場 10:15-17:30

加速器(1) 1A-a01-06 座長 石山 敦士

1A-a01:大内(KEK)らは、SuperKEKB衝突点用超伝導電磁石システムの設計に関する報告を行った。KEKB加速器で記録した世界最高の電子・陽子衝突頻度をさらに約
40倍高めることを目標にしている。8台の超伝導4極電磁石でビーム衝突を調整する。4極電磁石はダブルパンケーキで内半径が小さいためキーストーンが大きくなっている。
磁場精度10-4を達成するため2.5 μm以下の巻線精度が要求される。4極磁石は空芯のため電子ビームラインへの漏れ磁場を消去するためのキャンセルコイルが対向ビーム
ラインに取り付けられる。これらのコイルには3~6 tonの電磁力が加わる。
1A-a02:大内(KEK)らは、国際線形衝突型加速器(ILC)用クライオモジュールとほとんど同じ寸法となるS1-Globalモジュールの低温試験で行われた超伝導空洞ダイナミック
損失の測定結果について報告した。超伝導空洞の性能は空洞の発生することのできる加速勾配と運転時に発生する熱損失(ダイナミック損失)で評価される。ILCの運転
加速勾配を超えて測定ができたが、4台の空洞ともにILCの目標損失を達成できなかった。
1A-a03:高橋(京大)らは、薄膜線材を用いたコイル支配型FFAG用マグネット(ボア半径0.7 m、中心磁場2.55 T、k値9のFDF triplet型FFAG用Focusマグネット)の概念設計に
ついて報告した。線材幅3 mm、厚さ0.2 mmの薄膜線材を10本束ね、電流密度は500 A/mm2まで許容することを想定。flat-wise曲げ(曲げ半径20 mm)、edge-wise曲げ(曲げ
歪0.3%)、捻りを考慮している。必要線材長さは50 km。コイル形状が示されたが実際の巻線はかなり難しいのではないかという印象を持った。最大経験磁場12Tと大きい。
電磁力に関する検討は今後とのこと。
1A-a04:雨宮(京大)らは、Bi系多芯線材とRE系薄膜線材で巻かれた2極マグネットの多極磁場成分について、励磁履歴の影響に着目した測定を行った結果を報告した。
遮蔽電流による多極磁場成分は励磁履歴に依存するが、初期励磁を除き再現性が高い。また、RE薄膜コイルの方がBi系線材コイルより遮蔽電流減衰による磁場変動は
小さい。発表の中にあった遮蔽電流分布の解析について、複雑なコイル形状をどのように考慮したのかとの質問に対して、現状ではまだ2次元解析に留まっているとの回答。
1A-a05:水田(京大)らは、自由な導体配置を可能とするサーフェイス・ワインディング法によりNbTi線を積層巻線した2極マグネットの発生磁場を測定し、ビオ・サバール
の法則に基づく理論値との比較を行った結果について報告した。直線部では10-3以下の誤差に抑えられることがわかったが、4層、6層、10層の積層過程ではマグネット
端部において6極磁界成分の誤差が大きく、この部分での導体配置の精度向上が必要である。今後同巻線法を、HTS線材を用いたマグネットに適用する予定。会場から
「サーフェイス・ワインディング法」というネーミングについて異議が述べられた。
1A-a06:足立(東大)らは、J-PARCにおいて建設中のSuper-Omegaミュオンビームライン用超伝導ソレノイドのクエンチ保護として、銅線をヒータとして巻き、クエンチ発生
時にコイル電流を直接銅ヒータ線に流すことによって強制クエンチを起こさせる方法について、モデルコイルによる検証実験を行った結果について報告した。設定電流
270 Aでの遮断試験では、ヒータがクエンチを誘発するまでにかかる時間は60 ms、電流減衰時定数は1.5 s。シミュレーションコード「QUENCH」による結果からコイル
最高温度は70 K程度と見積もられたと報告。会場から、シミュレーションにおいて実験結果と整合をとるために行われた熱物性値のフィッティングの妥当性や一般性に
対する疑問、示されたコイル保護で課題となりそうな電圧発生に対する絶縁対策に関する疑問などが述べられた。


冷却システム 1A-p01-05 座長 春山 富義

1A-p01:岩崎(東工大)らによる報告で、高温超電導コイルの伝熱の方向性に関するモデル解析と実験結果が示された。巻き線方向の熱伝導が巻き厚方向より極めてよい
ことをコイルの各点温度を測定することで、計算結果と定量的に比較した。
1A-p02:水野(鉄道総研)らによる報告で、冷却系と磁石が分離できるモバイルマグネットでの真空封じ込め後のアウトガスの分析を行なっている。30 Kを越えて発生する
窒素ガス成分や活性炭によるアウトガス抑制効果などが示された。
1A-p03:玉田(中部電力)らによる報告で、ガス循環による伝導でコイルを冷却することによりコイル温度の均一性を確保し、通電・充放電時の基本特性を確認している。
20 Kのヘリウムガスを循環させるので小型冷凍機でコンパクトにシステムを組んでいる。
1A-p04:高田(筑波大)らによる宇宙マイクロ波背景放射観測のための0.1 K冷却システムの検討である。センサーのグレードアップに伴う必要冷凍能力をパルス管冷凍機、
ソープションクーラー、ADRの温度カスケードで実現する計画である。
1A-p05:岩崎(東北大)らによる風力エネルギ変動補償を燃料電池で行なうための検討である。液体水素とSMES、燃料電池などで構成する超電導電力変換システムとして
多くのシナジー効果が期待される。再生可能なエネルギーとしては太陽エネルギー(電池)よりも風力を想定している。


熱反射率/疲労 1A-p06-07 座長 仲井 浩孝

1A-p06:榊原(東大)らは、大型低温重力波望遠鏡の熱遮蔽に使用する金属の低温での熱放射率を求めるために、低温での銅とアルミニウムの反射率を測定した。
銅では温度に依る反射率の変化が認められたが、アルミニウムでは温度依存性がはっきりしなかった。この銅とアルミニウムの結果の違いについての議論が行われ、
今後の研究に期待したい。
1A-p07:由利(NIMS)らは、その使用目的である液体水素温度におけるTi-6Al-4V合金β焼鈍材の高サイクル疲労試験を行い、組織が極低温高サイクル疲労特性に
及ぼす影響についての検討を行った。β焼鈍材は(α+β)焼鈍材に比べて、引張特性は低下するものの、疲労特性は高い値を示している。測定データの少ない領域
であり、疲労限界などのデータの蓄積により、適切な材料選定の指針になると考えられる。


5月18日(水)
B会場 10:00-17:45

磁気分離(1) 1B-a01-07 座長 福井 聡


SQUID/計測(1) 1B-p01-05 座長 廿日出 好

1B-p01:紀和(岡大)らは、高温超伝導SQUIDを用いた太陽電池パネルの非破壊検査に関して報告を行い、SQUIDと組み合せた誘導コイルによりパネル上の磁気分布
を計測し、電気特性を評価する試みを行った。欠陥をもつ試料への適用や実用化が今後期待される。
1B-p02:前田(岡大)らは、SQUIDと一次微分型誘導コイルを組み合わせた交流磁化率測定装置を開発し、モルタルの水分量測定を試験した。測定信号における
モルタル内の磁性および反磁性物質と水分の分離が今後の課題と考えられる。
1B-p03:中納(産総研)らは、共鳴法を用いた液体窒素用液面計の開発を行っており、小型スピーカーから周波数をスイープしながら超音波を液面に向かって
発生させ、音響インピーダンスを計測する方法で、寒剤の体積すなわち液面をよい精度で推定できた。ボイリングの影響の除去、液体水素への適用が期待される。
1B-p04:関谷(JAXA)らは、X線マイクロカロリメータ用のキャパシタンス温度計を開発しており、極低温で配列可能なキャパシタンスとして、STOの酸素同位体
置換により最適な材料を探索し、その実現可能性について報告した。


磁気力解析 1B-p06-08 座長 酒井 保蔵

1B-p06: 中川(大阪大)らは体内患部への薬剤輸送、集積を磁気力制御でおこなうMagnetic Drug Delivery System (MDDS)に用いるマグネチックリポソームの調製、磁気力
集積、薬剤放出について報告した。マグネタイトと薬剤(本報告では蛍光物質)を内包しジバルミトイルホスファチジルコリン二重膜でマイクロカプセル化されたマグネ
チックリポソームは、流路の任意の場所に容易に磁気集積でき、集積後は、交番磁場による誘導加熱で細胞壊死しない44℃以下の温度で、膜を溶融させ、薬剤を
集積場所で放出させることができた。ドラッグデリバリーと薬剤放出を磁気制御できる可能性を示した報告である。
1B-p07:岡田(物材機構)らは強磁場による浮力を利用して微小重力環境でのタンパク質の結晶生成と同等の状況を地上で実現するため、タンパク質溶液が重力、
磁気力を受けながら結晶化してゆく課程をシュミレーションするモデルを作成し検討した。条件が良いときは熱対流がほとんど静止し、液表面で蒸発によりタンパク
質が濃縮され濃度の低い下方への拡散支配となった。討論ではタンパクの高品位結晶を得るには対流抑制だけでなく、結晶化に係わる多くの因子も考慮に入れる
必要があるという議論があった。超電導応用の生化学分野への寄与をめざした学際的研究である。
1B-p08:川崎(新潟大)らは希土類永久磁石の性能を十分に引き出すため着磁に2.5T以上の磁場が印加できる超電導バルク磁石を用いた新たな着磁方法を提案する
ため、希土類磁石材料を着磁するときの数値解析モデルを作成した。実際の永久磁石材料の超電導磁石(5 T)による着磁結果と数値解析結果はほぼ一致した。そこで
バルク磁石の磁極上(2.5 T以上)を未着磁の希土類磁石をスライドさせ着磁したところ、今回得られた解析モデルにより着磁結果が予想できることが示された。
バルク磁石による着磁設計に道を開く研究といえる。


5月18日(水)
C会場 10:15-17:00

Y系線材基礎特性 1C-a01-06 座長 木村 昭夫

1C-a01:下山(東大)らは、銅酸化物超電導体試料(Bi2212、Bi2223、Y123)に電子線照射を行い、ピンニング力向上に対する効果を系統的に調査し希薄不純物ドープ
による効果と比較している。
1C-a02:鶴田(名大)らは、BSOがREBCO中で等方的に磁束ピンニング特性を向上させることができるかの検討、結果を報告した。
1C-a03:春田(高知工科大)らは、Ba-Nb-Oナノロッドを導入したYBCO薄膜を用い、酸素アニール処理の有無によるJc特性の影響について報告した。
1C-a04:木須(九大)らは、磁気顕微法を用いたRE-123線材の局所Jc分布を評価し、さらに磁場中の電流輸送との相関を実験的に明らかににしてその機構について考察した。
1C-a05:マツェックアルカディ(九大)らは、Ni合金クラッド基板のYBCOをフォトリソグラフィでパターニングし、LTLSM法を使ってIcの制限メカニズムについて議論した。
1C-a06:九工大の松下先生による臨界状態理論についての発表で、現象論的な臨界状態モデルが厳密な臨界状態理論へと深化したことを示す報告であった。


電流分布/交流損失 1C-p01-05 座長 田中 秀樹

1C-p01 高橋(東北大):SMESを想定し,HTSテープを用いたダブルパンケーキコイルの転位による偏流抑制方法が報告された。偏流を抑制することで,貯蔵エネルギー
の低下も抑制できることを示した。
1C-p02 東川(九大): HTSテープの電流密度を走査型ホール素子顕微鏡で評価するシステムの高速化が報告された。長手方向の評価スピード36 m/hに対し,一桁上げて
もらいたいとコメントがあった。
1C-p03 永田(鹿児島大):マルチフィラメントHTS線における電流分布のピックアップコイル群での測定において,非線形性を考慮すると測定精度が向上することが
報告された。電流測定分解能を明らかにしてほしいとコメントがあった。
1C-p04 向井(鹿児島大):ピックアップコイルとポテンシャルリードを併用した交流損失測定装置において,ピックアップコイルを可動式から固定式に変更できた
ことが報告された。
1C-p05 二井(京大):Roebelケーブルの電流分布計算結果が報告された。これまでは二次元モデルであったが,本報告は三次元である。他導体との重なりによる
電流偏流の様子が明らかになった。


5月18日(水)
D会場 10:15-17:00

MgB2(1) 1D-a01-06 座長 木内 勝

1D-a01 井上(九大): 新構造の液体水素用液面計を提案し、その液面計の特性評価を報告した。新構造では、MgB2超電導線材と同様な温度依存性を持つ非超電導線材を
回路的に直列に接続することにより、液面測定がクライオスタット内のガス圧の影響を受けにくいようにし、注液時の液面上昇試験と連続実験から、その有用性を示した。
1D-a02 山本(東大): 冷凍機冷却で使用できるMgB2バルクマグネットを作製し、その特性評価を行った。特に直径20 mmφの2つのMgB2バルクを重ね合わせ、中央部で2.8 T
(15 K)の着磁に成功した。今後の組織の改善や添加による高Jc化及び充填率向上による特性向上に期待したい。
1D-p03 金澤(東海大): HIP処理を施した時のMgB2線材のコア組織に与える影響について調べ、ホットプレスに比べて高密度なMgB2コアが得られることを報告した。但し、
線材の通電測定はまだ行われておらず、これらの組織と通電特性の関係についての今後の発表に期待したい。
1D-a04 田中(東大): ex-situ法MgB2バルクの特性改善のために、原料粉末と臨界電流密度の関係を調べ、MgB2粉末作製時の熱処理温度が900℃より600℃の方が高いJc
得られることを示した。この特性向上は600℃の粒径は小さく、更にMgB2粉末内の未反応粒子の再熱処理により結晶界面が改善され、高充填率・高コネクティビティによる
ものと結論付けた。
1D-a05 前田(日大): 気相拡散法による炭素添加剤としてピレンガスを用いてMgB2を作製し、ピレンガスがa軸の格子定数を収縮させ、不可逆磁界が増加することを報告した。
1D-a06 嶋田(九大): Al基板上に作製したMgB2薄膜の微細組織観察を行い、高Jcと組織の関係について報告した。基板表面には、MgB2蒸着前に形成したAl2O3酸化膜があり、
これによりAlがMgB2膜に拡散しないことと、Si基板に比べてAl基板の粒径が小さいことが、高Jcの要因であると指摘した。


鉄系超伝導体 1D-p01-03 座長 吉田 隆

1D-p01: 尾崎(NIMS)は、拡散プロセスを用いたFeSe超伝導線材の作製を報告した。鉄シース内に各種材料を注入し、鉄拡散PIT法で超伝導線材を作製する方法で、
極細多芯線まで非常に簡便に造ることができることを特徴に挙げていた。組織観察から拡散反応によって緻密な均質な超伝導相が得られ、芯中心部には穴が生成して
いることを確認した。得られた超伝導特性は薄膜などに比べれば未だ低くTc0= 10 K程度、Jcは103 A/cm2(4.2 K,sf)程度であるが、今後多芯線などで向上することが期待される。
1D-p02:戸叶(NIMS)は、EX-situ PIT法でAg被覆Fe122系((BaK)Fe2As2)線材のJcに関する研究を報告した。粒界特性や加工性などの向上のため、Fe122材料にAgを
添加して、Ic=60.7 A, Jc=105A/cm2(4.2 K,sf)も特性をしめしたことを述べた。この特性は、各種シース型Fe系超伝導線材の報告の中ではもっとも高いものである。
1D-p03:筑本(ISTEC-SRL)は、Fe122系単結晶超伝導材料の各種置換材料によるJcに関して報告した。Fe122系のFeサイト、Baサイト、AsサイトにCo, K, Pなどを置換すること
によるピン力の違いを系統的に評価した興味深いものであった。多くのJc等の実験データをサイトの違いや添加量の違いの影響をまとめ考察していた。


A15線材(2) 1D-p04-05 座長 大圃 一実

1D-p04:伴野(NIMS)は、急熱急冷熱処理Nb3Al線材のピニング機構を解明する目的から、結晶組織とJc特性の相関について調べた。その結果、Nb3Snのような結晶粒径に
対する相関は見られず、積層欠陥の密度とJc特性に相関のあることが判明し、Nb3Al線材のピニング機構として積層欠陥が関与している可能性のあることを提案した。
1D-p05:金田(東海大)はジェリーロール法Nb3Snの生成過程について調べ、熱処理初期にNbとSnからNb6Sn5が生成し、その後の長時間熱処理でNb6Sn5と未反応Nbから厚く
化学量論組成のNb3Snが生成することを示した。また、線径の細線化によるNb3Sn生成効率向上やNbシート厚み増加などによりJcが向上し、21 Tの磁場中で約290 A/mm2
の高Jcが得られることを報告した。



5月18日(水)
P会場 ポスターセッションI 14:00-15:30

変圧器 1P-p01-02 座長 古瀬 充穂

本セッションでは、NEDO「イットリウム系超電導電力機器技術開発」において開発が進められている超電導変圧器に関し、過電流時の限流特性に関する発表が2件あった。
変圧器設計において短絡事故等による過電流に対して限流機能を持たせようとすると、巻線のノーマル転移後の抵抗を稼ぐ必要があるが、コイルの保護の観点からは
一定量の安定化材を付加しなければならない。発表では最適設計に関する数値解析結果の報告があった。


同期機 1P-p03-05 座長 中村 武恒

本セッションでは、高温超電導同期回転機の設計に関する報告があった。
1P-p03:九州大学の友田らは、NEDOの委託研究「希少金属代替材料開発プロジェクト」の成果として、500 kW級REBCO超電導モータの設計検討結果を報告した。界磁
超電導形であり、銅の電機子巻線に440 V、700 Aを通電し、1800 rpmで回転する構造であった。
1P-p04:新潟大学の河井らは、S-イノベの一環として船舶推進用高温超電導同期モータの界磁巻線の設計検討結果を報告した。高温超電導コイルの電流負荷率を目的
関数として、界磁コイルの断面形状を最適化した結果が報告された。
1P-p05:新潟大学の長谷川らは、大規模風力発電用高温超電導同期発電機の電磁設計結果を報告した。レーストラック形高温超電導界磁コイルの設計がFEM解析を
用いて進められ、10 MW級機の具体的仕様や構造が報告された。


磁気分離(2) 1P-p06-09 座長 岡田 秀彦

本セッションでは磁化活性汚泥に関する発表3件とローレンツ力による油の分離に関する発表1件があった。
1P-p06:甘 (宇都宮大) ニッケルメッキ廃液中のニッケルを電界処理で除去後に磁化活性汚泥により処理する方法による実験の報告である。廃棄処理に比べても安価な
処理が可能である。
1P-p07:陳 (宇都宮大) インドネシアの歯磨き粉製造工場から出る排水の磁化活性汚泥処理のためのベンチスケール実験の報告である。色々な前処理方法との組わせを
検討して、維持管理の大幅な低減が可能になった。
1P-07:廣島 (宇都宮大) 引き抜き後の活性汚泥からマグネタイトを回収することでコストの低減を目指している。適切なマグネタイト粒子の大きさを選ぶことで着脱が
容易になることが分かった。
1P-08:赤澤 (神戸大) 海水に懸濁した油分をローレンツ力で分離除去する方法のシュミレーションである。分離は可能という結果を得ているようであるが、モデルや
条件に付いてさらに改良する必要があるとのことであった。
磁化活性汚泥は経済性や具体的な適応対象等応用が近い発表であった。油の分離は実験との比較が待たれる。


A15線材(1) 1P-p10 座長 大圃 一実

1P-p10:竹内(NIMS)はフィラメント間バリア材にCuを用いたNb3Al多芯線材について報告した。Cuを用いることで伸線加工性が向上して伸線中の断線を防止でき、熱処理後の
耐曲げ歪特性も0.4%までIc劣化が抑えられた。またCuバリアによりフィラメント間の電磁気的な結合が低減でき、1.8 Kまで冷却してもフラックスジャンプが発生せず低磁界
安定性が向上するなどの効果が得られ、核融合や加速器への応用に対して良好な特性が得られた。


LTSコイル 1P-p11-12 座長 田崎 賢司

1P-p11 岩崎(KEK):現在稼動中のKEKB加速器をさらに高輝度化する目的で、ビーム最終収束用の超伝導磁石を新しく作り変え、電子と陽電子の衝突頻度を約40倍に高めることを
目指しているとの報告があった。試験用超伝導4極磁石モデル機を試作した結果、まだ十分な特性は得られていないが、引き続き改良を行い、2014年度の実機運開を目指すとのこと。
1P-p12 二ノ宮(成蹊大):LHDの励磁方法を最適化し、コイル安定性を向上させることを目的として、励磁時のAE信号分析を実施している。これまでAE信号を手動で分析していたが、
データが膨大のため多くの時間がかかっていた。今回、NI DIAdemというソフトを利用し、膨大なデータを短時間で処理することを可能になった。手動での処理結果とのデータ分析
結果についても有意な差がなく、有効であることが示された。


核融合 1P-p13-14 座長 田崎 賢司

1P-p13 市毛(原子力機構):JT-60SAを始めとする核融合装置用大型超伝導コイルの交流損失を解析するには、これまで膨大な時間を費やし、コイル設計、通電シナリオを構築する上で
の障害となっていた。今回、新たにFortranで交流損失解析ソフトを開発することにより、解析に要した時間を数十分の1に短縮することに成功した。
1P-p14 淺川(原子力機構):JT-60SAにおいて、EFコイル、TFコイルの磁場の製造、組み立て誤差を補正するための誤差磁場補正コイルの設計についての報告である。補正コイルへの
通電、ベーキング時の影響を考慮した熱解析、構造解析を実施した結果、設計基準を満たす結果が得られた。


酸化物その他超伝導材料 1P-p15-17 座長 向田 昌志

1P-p15:小田部(九工大)」BaFe2As2系単結晶に重イオンを照射し、磁場中特性を調べた。その結果、希土類-123系、Bi-系の凝縮エネルギー密度と同程度である
ことがわかった。サンプルは単結晶で、雲母のように剥がれ、10ミクロン厚ぐらいのものを用いた。TEMによる観察では、照射痕が短く観察され、TEM試料作製
のむずかしさがうかがわれた。
1P-p16:一野(名大)」鉄11系エピタキシャル薄膜を作製するために、PLD法で2枚の膜をFeTeS前駆体から作製し、それを2枚の膜を膜面同士を合わせて機械的に
密着させ、それをアルゴン気流中で焼成する方法をトライした。得られた膜はエピタキシャル成長(固相エピタキシー)しており、Tc(R=0)=8.0 K、Tc(onset)=11 K、
そして2 KにおけるJcは、約2,000 A/cm2であった。
1P-p17:前田(高知工大)」前田らは、超伝導物質の焼結材料研究を行っており、(Pb,M)Sr2(Y,Ca)Cu2Oz(M:Fe,Co,Ni)のカッコ内の原料をいろいろ変えて合成し
その評価を行っていることを報告した。


Y系線材高Jc化 1P-p18-24 座長 井上 昌睦

木内(九工大)らは、ナノロッドを導入したPLD-GdBCO線材の臨界電流特性の膜厚依存性(1P-p18)及び、配向Ni基板上に作製したPLD-GdBCO線材の臨界電流特性の角度依存性
(1P-p20)について報告した。ナノロッドを導入した線材では、Tcと、77 K、自己磁場のJc値とが低下しているものの、3T程度の磁場中では垂直磁場中のJcが向上していることが確認されて
いる。また、膜厚を1.0 μmから2.5 μmへと厚くしたところ、更なるJcの向上が得られている。
1P-p19:永水(九工大)らは、重イオン照射を施したGdBCO線材の臨界電流特性について報告した。Au及びXeイオンを照射したところ、両者ともTcの低下が見られたものの、磁場中Jcの値は
pure線材に比べて上昇していることが確認された。また、その際のJcの向上率は、Xeの方が高いとのことである。
1P-p21:末吉(熊本大)らは、3次元ピンを導入する手法として、BaZrO3/YBa2Cu3Oyの疑似多層膜作製によるBaZrO3ナノ粒子の導入を試みている。Jcの角度依存性において、c軸方向に
ブロードなJcピークが観測されており、本手法により3次元ピンが導入されていることが明らかとなった。成膜温度や積層条件による磁場中Jc特性の違いについても検討しており、今後の
進展が期待される。
1P-p22:林(九大)らは、REBCO線材の磁化曲線が、斜め磁場中において理論的な予測から大きく逸脱する現象について報告した。この特異な現象に興味を持った聴衆は多く、活発な討議が
なされていた。今後は、他の計測手法も取り入れて本現象の再現性を確認するとともに、その発現機構について検討するとのことである。
1P-p23:高橋(ISTEC)らは、TFA-MOD法によるBaZrO3ピン導入YGdBCO線材の磁場中高Ic化について報告した。今回プロセスの改善により、77 K、3 TのIcの角依存性における最小値が、
15.4 Aから26.1 Aに向上している。このIc向上の主要因は、本焼時に中間熱処理を施していることで、これによりporeの少ない緻密な膜の形成に成功したとのことである。
1P-p24:筑本(ISTEC)らは、In-plume PLD法で作製したBaSnO3添加GdBCO線材の、線材作製時の線速と臨界電流特性の関係について報告した。同程度の膜厚を得る場合、線速が遅い方が
磁場中のIc値が高くなることが明らかとなった。これは、線速が早い場合には、異なるレーンの経験回数が増え、c軸相関の弱いピンになってしまっていることが考えられる。実際の応用に
おいては、これらを考慮した製造条件の最適化が必要とのことである。


HTS臨界電流 1P-p25-30 座長 山崎 裕文

18日午後のポスターセッション「HTS臨界電流」では6件の発表が予定されていたが、そのうちの1件は発表者の都合で19日の午後に回った。
フジクラの藤田らは、自社製の IBAD-PLD法 GdBCO テープのn値について、1–3 T の印加磁界中、幅広い温度範囲での測定を行っている(1P-p25)。c軸に平行な磁界中
では、n ≈ 15–20 であまり変化しなかったが、ab 平面に平行な磁界中では変化が大きかった。
京大の西野らは、薄膜テープ線材をメカニカルスリッタで切断する際の特性劣化について磁気ナイフ法による Jc分布の測定で評価し、スリッタの刃の間隔が広いとき
に線材端部で超電導層に歪みが生じてJcを劣化させていることを明らかにした(1P-p28)。
九大の榊原らは、IBAD-PLD GdBCO 線材の広範な温度・磁界中において測定したいくつかの電流電圧特性データを元にして、パーコレーション転移モデルを用いた補間に
よるB-T 平面におけるJcマップなどを作成し、Jcの温度・磁界依存性を視覚的に理解できるようにしている(1P-p29)。
熊本大の沖田らは、SrTiO3 バイクリスタル基板上に作製した YBCO 薄膜の臨界電流を第3高調波誘導法と通電法で測定して比較している(1P-p30)。誘導法の測定コイルを
結晶粒界上に置いた場合、印加磁界が非常に低い時は、第3高調波電圧の最初の立ち上がりから粒界Jcを測定できているようであるが、印加磁界が高くなるとうまく
測定できなくなっている。面白い研究であるが、粒界Jcと粒内Jcの両者に依存する場合の第3高調波の発生についてのさらなる研究が必要である。


HTSコイル(1) 1P-p31-36 座長 宮崎 寛史

1P-p31 大保(フジクラ):GdBCO線材を用いた含浸コイルについて報告があった。製作した6個のパンケーキコイルは再現性よくコイル化できており、6積層コイルを
伝導冷却し、50Kにて1.27T達成したとのこと。
1P-p32 宇都(九大):パンケーキコイルの転位方法について報告があった。パンケーキ数の個数の違いで偏流の傾向が変わるということである。今後実験による
検証も考えているとのこと。
1P-p33 森脇(九大):巻乱れによる付加的交流損失の解析結果について方向があった。今後実験により効果を確かめるということ。
1P-p34 柳(NIFS):roebel導体を模擬した導体について報告があった。5 mm幅の線材を10 mm幅の線材を用いて接続したものを20本準備し、それらを組み合わせた導体の
通電試験を実施し、転位導体として有効であることを確認したとのこと。
1P-p35 海保(産総研):線材量をなるべく減らすための分割巻きについて、簡単に設計できる方法について報告があった。
1P-p36 大西(早稲田):クエンチ検出方法として並列導体の素線間に流れる電流の差をホール素子にて検出する方法について報告があった。検出時間に関しても解析に
より応答速度が速いことを確認済みであるということ。


直流送電 1P-p37-38 座長 王 旭東

1P-p37 呂(東大):「直流き電鉄道システムへの超電導ケーブルの適用可能性に関する解析」という題目で、直流き電線と並行に高温超電導直流ケーブルを変電所間に
設置したモデル路線を設定して、エネルギーの得失に関する解析評価であった。5か所の変電所間に超電導ケーブルを導入することにより、き電系の電圧変動が抑制され、
回生率が向上するという結果であった。しかし、電車の運転状況などによっては回生できるエネルギーが変動する。今後は、超電導ケーブルの導入方法やケーブル形状
などに関する検討が必要だと思われる。
1P-p38 浜辺(中部大学):「200 m 超伝導直流送電ケーブル実験装置の通電試験 - 2」という題目で、200 m 級の超伝導直流送電ケーブルの通電試験と通電に伴う
ケーブル配管の磁気特性の評価結果について報告された。電流リード部(ペルチェ素子、銅)の抵抗差によりケーブル内で偏流が生じるため、想定されるケーブルIc
(2 kA)に対して1.5 kAまでしか通電できなかったが、端部の抵抗を調整することにより2 kAまで通電可能となった。真空断熱配管の大気側が磁性体の炭素鋼でできて
おり、通電時に磁気エネルギー貯蔵の効果があることも報告された。今後は、定常時の偏流対策に加えて、事故時の過電流流入に対する保護設計も必要だと思われる。


5月19日(木)
A会場 9:30-11:45

回転機 2A-a01-04 座長 山田 穣

2A-a01 円形超電導界磁コイルを用いた大型風力発電機の電磁設計 QUDDES Mohammad Rashidul, 関野 正樹, 大崎 博之 (東大)
最近話題の新エネルギーの1つである風力への超電導の応用検討である。高温超電導線材により10 MW級の大型の風力発電機の設計を行った。20 K動作で10 Tを発生させるが、
電流密度168 A/mm2の線材を使って設計を行った。コストの主要因となる線材量に関して最適化設計を行っており、その結果、1000 ㎞もの線材が必要となった。
また、鉄心をいれて線材量を減らす検討も行ない650 km程度に減らすことができるが、発電機の重量が重くなることを考慮しなくてならない。米国ほかで超電導風力の検討が
盛んであるが、10 MW級では超電導が必須といわれている。こうした研究が盛んに行わることが学会の活性化につながる。
2A-a02 風力用5 MW突極型YBCO同期発電機の基本電気設計検討 牧 直樹, 篠原 信行, 和泉 充 (東京海洋大学)
上記同様に風力発電機の応用にYBCO線材を用いた検討を行った。システムは、5 MW風力発電機で40極の界磁を使い、電機子は通常のCu線のコイルである。また、いずれも
鉄心を使った設計である。Y系を使うと77 K運転も可能であるが、60 K運転になると線材はたった24 kmしか必要ない。線材長が非常に短く、かつ発電機重量もたった60 tonである。
また、通電電流は界磁コイル全体の発熱量から求めており、現状のYBCO線材を用いて74 A/5 mm幅としている。線材の高Ic化も進んでおり、さらに線材使用量も少なくて済む
ようになると期待できる。A01の内容と合わせて、従来のCu線の巻線による現状機器との詳細な比較をメーカを交えて具体的にしたいところである。(ちなみに、PM機の5 MW機は
400-500 tonとも言われている)。
2A-a03 A phase-domain model for superconducting synchronous machine QUEVAL Loic, 関野 正樹, 大崎 博之 (東大)
超電導発電機の解析モデルの英語による発表であった。超電導同期発電機にphase-domainモデルを使って検討を行った。これにより、発電機の過渡的および定常状態を把握できる
とのことである。高調波の影響を入れた評価が従来の高価なFEAと同程度の精度で行える。これを使って、10 MWの空芯の風力発電機の場合のロータ位置によるインダクタンスの
変化や起動時の電圧、電流波形の様子をシミュレーションしている。
2A-a04 高温超電導電機子巻線を適用した永久磁石発電機のコギングトルク低減と発電特性改善に関する基礎検討 上原 亜矢, 中村 武恒, 雨宮 尚之 (京大); 平松 敬司
(E. エナジー); 松下 誠一 (松下電機総合事業)
永久磁石発電機のコギングトルクを構造的に解決する手段を検討した。コギングトルクは、非励磁状態で回転子を動かした際に発生する磁気吸引力のことで、制御を行う上では
外乱となるため、出来る限り小さくすべきものである。これに対して、発表者らは回転子を直列に接続した方式でトルク脈動を低減する方法を提案している。解析検討により、
2つの回転子の直列連結数および空間位相差を調整してやれば、大幅にコキングトルクの低減が可能であることがわかった。これにより、モータの高効率化が図れる。


誘導同期機 2A-a05-08 座長 牧 直樹

2A-a05:久家(九大)らはMgB2線材をかご型ロータバーに用いた高温超電導誘導/同期モータを京大から九大に移設し、試験システムを拡充してブローニブレーキを
用いて液体ヘリウム浸漬冷却下で負荷試験を実施した結果について発表した。モータの駆動に当たっての電圧制御法や効率の算定法などに関する質問があり、電圧上昇は
緩やかに行うのが望ましいこと、損失と効率評価は今後進めていくとの回答があった。
2A-a06:中村(京大)らはかご型ロータバーと固定子巻線にDI-BSCCO線材を採用した全超電導誘導/同期機を液体窒素のドブ漬け冷却で無負荷状態でのインバータ運転
試験を実施した。24個のレ-ストラック型ダブルパンケーキコイルを組み合わせて3相4極2層重ね分布巻し、スロット内側コイルの臨界電流33.3 Aに対して最大40 Aの磁束
フロー領域までコイル過負荷運転が可能な結果を発表した。冷却法や安定性に関する積極的な討議が行われた。
2A-a07:中村(京大)らはかご型ロータバーのみにDI-BSCCO線材を採用した高温超電導誘導/同期機を対象に低抵抗に伴う負荷時の回転安定性に関してMATLAB-Simulinkに
開発した解析コードを適用して検討した。ハンダ接続抵抗だけではトルクが激しく振動して不安定になるが、HTS線材の起磁力依存非線形抵抗を考慮するとかご型巻線に
大きい瞬時抵抗が発生し、自律安定回転が可能になることを明らかにした。安定・不安定運転領域マップに関する質問があり、詳しく説明された。
2A-a08:関口(京大)らはかご型ロータバーと固定子巻線にDI-BSCCO線材を採用した全超電導誘導/同期機を対象に研究開発の現状を報告した。さらに、JMAGを用いた
トルク発生計算結果を実測結果と比較しほぼ一致する結果を得た。冷却や損失並びに今後の実験予定に関して熱心な討議が行われた。


5月19日(木)
B会場 9:30-11:45

ITER(1) 2B-a01-04 座長 今川 信作

最初に,原子力機構の小泉より,ITERの超伝導マグネットの調達進捗状況について全体的な報告があった。日本の分担は,TFコイル用超伝導導体の25%(導体33本,Nb3Sn線
約110トン),9個のTFコイル巻線・組立,TFコイル19個分の構造物,およびCSコイル用超伝導導体の100%(導体42本Nb3Sn線約120トン)である。TFコイル用導体製作,1/3規模
のTFコイル巻線・熱処理試作,絶縁含浸試作,ラジアル・プレートの実規模試作,構造物の実規模試作などが計画通りに進行している。続いて,原子力機構の名原より,
TFコイル導体の量産化と導体性能試験について報告があった。スイスのSULTAN装置での導体性能試験において,繰り返し励磁と再冷却による分流開始温度の低下が観測
されている。その低下の度合いが,ITER工学設計活動として実施されたCSインサートコイルよりも著しいことから,SULTAN装置の大きな磁場勾配が原因と考えられ,調査が進め
られている。次に,原子力機構の松井より,TFコイルの1/3規模巻線試作と熱処理試作において要求仕様を満足する結果が得られたことが報告された。TFコイルは巻線・熱処理後
にラジアル・プレートの溝に導体を収納させるため,巻線・熱処理による導体長さの変化を精度良く予測することが必要である。そのため,直状導体と3ターンソレノイド巻線の
2種類のサンプルで熱処理による伸縮量を評価したところ,直状導体は0.064%,ソレノイド巻線は0.074%となり,形状による差が認められた。今後,サンプル数を増やして,
より正確な導体伸縮量を評価することが予定されている。


ITER(2) 2B-a05-08 座長 三戸 利行

ITER-TFコイルの製作進捗状況について原子力研究機構より3件の報告があり、CIC導体のジョイントに関する研究について東北大学からの発表がなされた。最初に、ITER-TFコイル
の実機製作に先駆けて行われた1/3規模ダブルパンケーキ(DP)コイルの耐放射線性樹脂による絶縁含浸試作試験の結果について報告があり、気泡のない含浸が可能であると共に、
耐電圧試験の結果として異常がないことが確認された。今後実機サイズのDPで最終確認後、TFコイルの製作を開始する。次に、TFコイルの実規模ラジアル・プレート(RP)の試作
結果について報告があり、10分割した部分セグメントを最終形状に機械加工した後、レーザー溶接でD型のRPに組み立てる製法について実規模モデルで製作検証した。結果として
同製法により、実機RPの要求を満たす高精度組立が可能であることを確認した。次に、TFコイル用構造材料の4 K品質確認試験結果について報告された。結果として実規模試作用
素材の4 K機械特性はそれぞれの鋼種に対する設計値及びITER要求値を満たしており、実機製造に必要な品質を有していることを確認した。最後に、東北大学、上智大学、原子力
機構、NIFSの共同研究として、CIC導体のジョイント部の銅スリーブと素線との接触抵抗の変化について、実験及び数値解析による検証を行い、撚りピッチを最適化することにより
接触状態を改善できることが示された。


5月19日(木)
C会場 9:45-11:45

HTS線材特性(1) 2C-a01-03 座長 土井 俊哉

本セッションでは、RE系線材のひずみ特性、熱応力・歪み解析や臨界電流の歪効果などに関して3件の発表があり、活発な議論がなされた。
2C-a01:山田ら(SRL)は、ISTEC製IBAD-PLD-GdBCO線材、フジクラ製IBAD-PLD-GdBCO線材、住友電工製配向金属基板-PLD-GdBCO線材の3種類の線材について、曲げひずみ
特性を報告した。また、フジクラ製線材については超伝導層を3分割した後、模擬欠陥を導入し、更にその模擬欠陥部分に長さ20 mmの3分割線材を保護銀層同士が重なるように
配置して拡散接合することで線材の補修の可能性について検討を行なった。正常線材では直径10 mmの曲げひずみ印加時でもIc低下は5%未満、補修線材では直径60 mmの曲げ
ひずみ印加で5%のIc低下があるもの、試作予定の変圧器コイル二次巻き線の最小直径514 mmに対して十分に余裕があることが確認できたと報告した。
2C-a02:王ら(早大、ISTEC-SRL)は、YBCO超電導線材の熱応力・歪みと過電流通電による線材の温度上昇の関係を、3次元解析により評価した。通電電流がIc以上の場合には、
安定化層圧のばらつきが存在すると局所的なホットスポットが形成され、それが発生する応力と歪みが超電導線材の局所的な劣化を引き起こすと指摘した。
2C-a03:西島ら(NIMS、安東大)は、市販されているGdBCO線材の臨界電流の温度・磁場依存性及び機械特性試験を行った結果を報告した。


HTS線材特性(2) 2C-a04-07 座長 植田 浩史

2C-a04:小黒(東北大)らは,Tcの引張りひずみ依存性とSpring-8の放射光による内部ひずみ測定の結果を用いて、GdBCO coated conductorのひずみ効果のメカニズムの
解明に向けた研究の発表を行った。Tcの引張りひずみ依存性の結果について、coated conductor内のGdBCO結晶の変形挙動をもとに、説明を試みた。GdBCO単結晶の一軸
圧縮時の結晶の変形と、coated conductor内の結晶の変形が異なるために、Tcの変化の仕方が異なる可能性があり、coated conductorのひずみ超伝導特性の関係を理解
するには、今回の考察だけでは不十分で、GdBCO結晶の変形挙動を、3次元的に調べることが必要とのことであった。
2C-a05:高橋(名大)らは,LTG(Low-Temperature Growth)-SmBCO厚膜の低温における超電導特性を明らかにすることを目的とした研究について、金属基板上にLTG-SmBCO
厚膜を作製し、77、65、40 K における磁場中Icの評価の報告を行った。LTG-SmBCO厚膜は膜厚増加に伴って基板温度を上昇させて作製し、7 TにおけるIcは、65 Kでは48.2
A/cm-width、40 Kでは204.5 A/cm-widthを示し、低温ほど高いIcを示した。
2C-a06:吉田(名大)らは、磁場中におけるJcの向上を目的として、Sm1.04Ba1.96Cu3Oyとlow-Tc相である Sm/Ba置換量が大きなSm1.2Ba1.8Cu3Oyを積層した線材を作製し、磁場中
におけるJcを評価した。
2C-a07:平野(SRL)らは、MOD 法で作製した長尺線材をレーザスクライビング加工とコイルのACロスの測定結果の報告であった。MOD 法長尺線材をレーザスクライビング
で5 分割し、そのフィラメント5 本の臨界電流(Ic)及びTapestarによるヒステリシス損失の測定評価を行った後、コイルを作成して交流通電時の損失を各フィラメントに
流れる電流を測定する事により検証を行った。線材作製及び分割加工の均一性に問題の無い事を確認し、さらに、コイルのロスが1/5(1/分割数)になることを確認した。
コイルでの確認は世界初とのことである。ただし、質疑の中で、ロスの低減はレーザスクライビングによる細線化だけでなく、巻線の際に工夫(「特殊巻線」と称していた)
を施しているとの回答があった。


5月19日(木)
D会場 9:30-11:45

Bi系材料 2D-a01-04 座長 熊倉 浩明

本セッションでは4件の発表があった。
九州大の八尋らは、「新低交流損失Bi-2223超電導線の開発(2) -中央絶縁層をもつ多芯線の結合時定数の評価-」と題して発表した(住友電工との共同研究)。発表者
らは、交流損失の低減のために、従来の銀シースBi-2223多芯テープ線材において、内部のフィラメント部分に絶縁層を配置した新しい構造の線材を作製し、交流損失特性を
評価しているが、今回はこの断面構造をモデル化して結合損失を解析し、実験結果と比較している。フィラメント結合の大きさを表す指標として、ツイストピッチの二乗で
規格化した結合時定数を比較すると、絶縁層を配置したテープの値は通常のテープの約1/23となり、中央絶縁層の効果が現れているとしている。
住友電工の山出らは、「DI-BSCCO線材の高性能化開発」と題して発表した(物材機構、東大との共同研究)。短尺試料のIcを改善する方法としてTcの向上を試みている。これ
までは、Tcを向上させるとPb3221が粒界に析出してむしろIcを低下させてしまうため、今回はPb3221の析出を抑制する焼成条件を検討した。その結果、Tc=112.6 Kの試料(通常
熱処理ではJc=111K)で77 K、ゼロ磁界でIc=241 A、Jc=74 kA/cm2の高い値が得られたと述べた。また、DI-BSCCO線材において、キャリアドープ状態を調整することにより、低温、
低磁場~中磁場でのIcが改善するとし、450oC、アルゴン雰囲気中での追加アニールにより、30 K、2 TでIc=376 A、20 K、2TでIc=532 Aの高い値が得られたと述べた。
応用科学研の長村らは、「BSCCO-2223テープの室温機械特性についての国際ラウンドロビン試験と標準不確かさの評価」と題して発表した(CEME, Karlsruhe研究所、安東国立大、
岩手大、京都大、ヤマハモータとの共同研究)。国際標準化活動の一環として、実用超電導線材の機械的性質の測定方法について、7つの研究機関が参加して2006年から2010年に
かけて実施した結果の報告である。試料は国内外で市販されているラミネートされたBi-2223テープならびにラミネートされていないテープである。これまでは、データの誤差の
評価に標準偏差を用いる習慣があったが、超電導に関する国際標準(IEC-TC90)では、式 s(q)=s(qk)/n1/2で表される「標準不確かさ」を用いることになったと述べた。要点は、
nで示される試験回数あるいはデータ数を一定にした比較が重要であること、としている。
東京大の小畑らは、「c軸配向Bi(Pb)2223バルクにおける加圧焼成条件と臨界電流特性の関係」と題して発表した(住友電工との共同研究)。加圧焼成法がBi(Pb)2223バルクの
粒間結合に与える影響を明らかにするために、焼結温度や時間を一定にして焼結時の保持圧力を変化させ、これが微細組織や臨界電流特性に及ぼす影響について調べている。
加圧下で焼結することにより、試料の相対密度、Jcともに大きく向上するとしている。組織観察より、加圧下で焼結することで緻密な組織が得られることがわかった。4時間と
いう短時間熱処理ではBi(Pb)2223の粒径も小さく、焼結反応はまだ十分に進んでいないが、それでもかなり高いJcが得られている。焼結時間が4時間の場合、10気圧以上ではJc
圧力依存は認められなくなるとしている。


バルク/ピンニング 2D-a05-08 座長 筑本 知子

2D-a05:岡(新潟大)らは材料内部の気泡を低減して機械的 強度を向上したDy123バルク磁石について、パルス着磁による磁場捕捉性能を評価し、30 Kにおいては、6.77 Tの
磁場印加で最大捕捉磁場2 Tが得られたものの、それ以上の磁場印加では発熱の影響のため、むしろ捕捉磁場が減少することを報告した。
2D-a06:藤代(岩手大)らはパルス着磁について、ソレノイド型コイルと渦巻き型コイルを組み合わせた場合の捕捉磁場分布のシミュレーションを行い、各コイルの電流を一緒に
制御する直列接続の場合には、得られた捕捉磁場分布はソレノイドコイルのみの場合に近いのに対し、各コイルの電流を独立に制御する並列接続の場合には渦巻き型コイル
の外形を小さくすると内側まで磁束侵入し、捕捉磁場が向上することを示した。
2D-a7:荒屋敷(岩手大)らは大きな捕捉磁場が得られたバルク体とピン止め力は強いもののあまり捕捉磁場が大きくないバルク体について、磁場中冷却着磁(FCM)とパルス
着磁(PFM)をした時の捕捉磁場分布の比較から、捕捉磁場の向上のためには、ピン止め力分布の均一性が高いことが重要であると報告した。
2D-a08:杵村(東大)らは、RE123バルク育成において、低酸素分圧下育成を行なうとRE-Ba置換は抑制されるもののAr等不活性ガスの残存によりボイドが多く生成し機械的
強度が下がることへの解決策の一つとして、純酸素を用い全体圧を約0.05-0.06気圧に下げて育成する方法を開発し、a,c成長領域ともにボイドの少ない試料の作製に成功
したことを報告した。しかしながら、今の所種結晶から離れるほど特性が低くなるなどの問題があるため、今後さらなる条件最適化により特性向上を図るとのことであった。


5月19日(木)
P会場 ポスターセッションII 13:40-15:10

SQUID/計測(2) 2P-p01-09 座長 塚田 啓二

SQUIDに関して非破壊検査2件,デバイス特性3件の報告があった。
2P-p01新山他(豊橋技術大)は,従来非破壊検査が困難であったCFRPの破断開始箇所の予測の可能性を報告した。
2P-p02北村他(豊橋技術大)は,金属異物検査における多チャンネル計測による幅広試料検査への適用性について報告をした。
2P-p03黒澤他(豊橋技術大)はSQUIDの1/fノイズを低減する方法としてHTS薄膜を積層させる構造を試みて,2P-p04廿日出他からは,効果がある構造について報告があった。
2P-p05寺内他(北大)は,この積層構造の理論的な解析方法としての有限要素解析の精度について報告をした。
2P-p06山田他(鉄道総研)は,極低温の温度計測としてFBG方式の光ファイバの適用を報告した。そのコーティングの材料により感度を向上させることができることを示した。
2P-p07宮他(東大)は,無振動の極低温を得るための冷凍機の実現を目指し,高感度捻り振り子法を用いた振動状態の評価方法を報告した。
2P-p08重松他(佐世保高専)は,金属中の水素拡散状態を観察する方法としてサンプルを振動させレーザドップラ干渉計で計測する方法を報告し,金属中から水素が放出
される様子を観察している。
また,2P-p09重松他はカーボンナノチューブを寒剤中で放電生成する方法において,寒剤の違いによって生成が異なる原因として放電特性の違いを報告した。


冷却・冷凍 2P-p10-13 座長 木村 誠宏

冷却/冷凍のポスターセッションは、蓄冷材充填法の評価1件、室温磁気冷凍2件、ヒートパイプ1件の計4件が報告された。
2P-p10 蓄冷材を同軸配置に充填することによってGM冷凍機の動作領域特性が報告された。加工が困難な蓄冷材料の応用に期待したい。
2P-p11 ハルバッハ配列を用いた室温磁気冷凍機の性能について報告された。冷凍機としては評価・改善点が残されている印象を受けた。今後の研究成果の進展を期待したい。
2P-p12  一次元モデルによる室温磁気冷凍(AMRサイクル)の冷凍特性の解析について報告された。
2P-p13 低温動作自励振動式ヒートパイプの熱輸送特性に関する報告であった。ポスターでは、自励振動式ヒートパイプの熱輸送の原理に関して充分な説明がされたものの、
実験から得られた圧力振幅の解析の理解が不十分であった。今後の研究成果の進展を期待したい。


加速器(2) 2P-p14-18 座長 大崎 博之

本ポスターセッションでは5件の発表があり,いずれも医療用加速器のための超電導コイルや超電導線材の研究に関する発表であった。
2P-p14:矢崎(早大)は,重粒子線がん治療装置の加速器用コイルに使用される超電導線材を想定して,Y系およびBi2223超電導線材の臨界電流のひずみ特性への,中性子線
照射の影響を調べたが,変化は観測されなかったことを報告した。早大,阪大,中部電力,放医研,原子力機構の研究である重粒子線がん治療装置用の高温超電導サイクロ
トロンの開発について,2P-p15:石山(早大)は,目的,サイクロトロンのコイル構成,高温超電導化のメリットなどを紹介し,2P-p16:植田(阪大)は,高温超電導サイクロ
トロン用超電導コイルシステムの試設計結果について報告した。東芝,京大,KEKの研究である加速器用マグネット開発に向けたY系超電導コイルの製作として,2P-p17:小柳
(東芝)は,Y系線材に流れる遮蔽電流による付加的磁場を測定するためにレーストラックコイル2個を製作し,その特性評価結果について報告した。2P-p18:小柳(東芝)は,
固定磁場強収束(FFAG)加速器のマグネットへY系線材を適用するため,ネガティブベンドを有する巻線要素を試作して,超電導特性に劣化が無いことを報告した。


MgB2(2) 2P-p19-26 座長 山本 明保

このセッションでは線材5件、バルク体2件、薄膜1件の計8件の報告が行われた。
2P-p19 波多(九大)らはX線CTを用いて種々のMgB2線材内の空隙や異相を三次元的に可視化し、組織的な特徴と電流経路の関係について詳細に報告した。
2P-p20 葉(NIMS)らはIMD拡散法MgB2線材に対して不純物添加を行い、SiCとトルエンの共添加によって4.2 K, 10 T下のJcが50 kA/cm2に達したことを報告した。
2P-p21 内藤(岩手大)らはカプセル法を用いてMgB2バルク体を作製し、5 T中の磁場中冷却により、17 Kで1.3 Tの捕捉磁場が20 mmφバルク表面で得られることを示した。
また、バルク体表面4 mm上部で測定した捕捉磁場の分布は比較的きれいな円錐形を示すことを報告した。
2P-p22 藤井(NIMS)らはMg(BH4)粉末を原料として作製したPIT法MgB2線材の超伝導特性について報告した。煆焼したMg(BH4)粉末をFeシースに充填することでMgB2
生成時の体積収縮を抑制することができ、Mg+B(アモルファス)粉使用in-situ線材と同程度までJc特性が改善されることを示した。
2P-p23 久保田(九大)らはMg2Cuを添加源としたCu添加MgB2線材の微細構造観察を行い、MgB2の生成過程におけるMg2Cu添加の効果を検討した。MgB2結晶粒界に
生成するMg-Cu化合物種は熱処理時間に依存し、MgB2(001)面と方位関係を持って存在していることを指摘した。
2P-p24 谷川(九工大)らはSiCをドープしたMgB2線材の臨界電流密度に及ぼす圧延効果を報告した。圧延によりテープ線のフィラメントアスペクト比が増すとともにJc
向上がみられ、結晶配向や欠陥導入による効果を指摘した。
2P-p25 米倉(熊本大)らはAlテープ基板上に作製したMgB2超伝導薄膜の輸送特性について報告した。10 K, 低磁場下において9.45 MA/cm2の非常に高いJcが得られて
おり、新しいMgB2線材作製法として期待される。
2P-p26 木内(九工大)らは17 Tまでの高磁場下での測定から、MgB2バルクの磁束ピンニング特性が20 Kを境に低温で変化すること、B4CとSiCの炭素源の違いにより
上部臨界磁場の温度依存性に大きな変化はみられないが、不可逆磁場の温度依存性が異なることを報告した。


Y系線材製造法 2P-p27-29 座長 東川 甲平

2P-p27:本間(SRL)らは、Y系線材で作製されたレーストラックコイル(樹脂含浸、伝導冷却)の通電試験について報告した。線材のJc-B特性との比較から巻線による
劣化が無いことを確認した上で、コイルが熱暴走を起こすような電流通電時の平均電界は、一般的な電界基準よりもかなり低いことがわかった。また、コイルの各層
に取り付けられた電圧タップからの情報と磁界分布解析の結果から、電圧は磁界分布の影響を受けて低Icとなる領域で局所的に発生していることがわかった。今後、
その局所的に大きくなった電界と通常用いられる電界基準との大小関係が明らかとなれば、コイルの設計基準として有用な情報になると考えられ、続報が切に待た
れる。全般的な試験結果としては極めて良好な結果であり、その作製法や冷却法などのノウハウを求めて、一際多くの聴衆が集まっていた。
2P-p28:内藤(岩手大)らは、 Y系線材の比熱と熱拡散率について、実験結果と物性値との比較について報告した。比熱に関しては文献にある物性値から高い精度で
評価が可能となる一方、熱拡散率の評価については注意すべきという指摘があった。具体的には、線材長手方向の熱拡散率について調べられており、基板よりも
ほとんど安定化層の銀によって特性が支配されているとのことであった。今後、線材の厚さ方向に関する知見も得られれば、特にコイル化した際の熱設計に重要な
指針を与えると期待される。
2P-p29:梶岡(千工大)らは、フッ素フリーMOD法よるYBCO膜に関してZr添加の効果について報告した。ピュアな層とZrが添加された層を、それぞれの厚さを制御して
交互に塗布・仮焼することにより、Zrの添加量の制御された計500 nm厚の薄膜の作製に成功した。その結果、Zrの添加量の増加に伴って超電導層の配向性は低下する
ものの、Jc値はあるZrの添加量で極大値(3.8 MA/m2)をとることがわかった。XRDの結果からは明らかなBZOのピークは観測されておらず、メカニズムは検討中との
ことであったが、ピン導入の効果と配向性のバランスをとることにより、高Jcの厚膜MOD試料への展開を期待したい。


HTS電磁特性 2P-p30-34 座長 小田部 荘司

5件の発表があった。新潟大学の春日らはYBCO線材を6角形に同軸に2層配置した外層と内層の電流バランスにより、損失が異なることを報告した。わずかに内層に
電流を流した方が損失が小さくなる。この理由として内層が外層に影響を及ぼしていることがあげられるとした。新潟大学の七山らは多角形に配置したYBCO線材に
おける交流損失特性を数値解析して、実験結果を精度良く説明できることを示した。特にギャップが大きいと線材に加わる垂直磁界成分が大きくなるので、その
部分による損失が大きくなることが指摘された。早稲田大学の柄澤らはBi-2223線材とYBCO線材について240℃までの温度まで10分間、上昇させたときにどのように
線材が劣化するかを調べた。その結果Bi-2223線材は影響を受けなかったが、YBCO線材は180℃で溶融するハンダがあるために200℃から臨界電流特性に劣化が見ら
れた。東大の寺尾らは80 mm四方の空間に複数の40 mm四方のバルク板を敷き詰めて、2 Tでの磁場中冷却においてどのくらい磁場を捕捉できるかを示した。その結果
3層に敷き詰めたときに698 mTの磁束密度を捕捉できた。産総研の馬渡は超伝導ストリップの構造を調整することにより、透磁率に異方性をもたせ、外部の磁場の
乱れの無い磁気遮蔽である磁気クローキングの可能性を理論的に示した。今後の応用例について注目される。


5月20日(金)
A会場 9:30-14:45

LHD 3A-a01-04 座長 小泉 徳潔

3A-a01 今川 信作 (NIFS) ”LHDヘリカルコイルの常伝導伝播速度の考察その2”
LHDヘリカルコイルの常電導伝播現象について、解析を行い試験結果と比較した。解析では、測定した電圧波形から発熱パワーを評価し、熱伝導方程式を解き、計算した
常電導伝播速度は試験結果と比較的良く一致した。
3A-a02 三戸 利行(NIFS) ”LHD超伝導システムの高信頼化運転と改良履歴”
LHDの常電導コイルシステムの運転履歴と稼働率が報告された。LHDの運転は、14年に及んでいるが、その間初回運転及び直近の運転以外は98%以上の稼働率を達成して
いる。直近の運転では、圧縮機で異常が発生したが、重大な故障に至る前に異常を感知し、修理することができた。稼働率の高さ、重大故障を避けたことは高く評価される。
3A-a03 柳 長門(NIFS) ”ヘリカル型核融合炉FFHRのマグネット設計の進展”
次期ヘリカル炉であるFFHRのマグネット設計及び試作の進捗が報告された。FFHRマグネットは蓄積エネルギー160 GJの大型マグネットであり、その実現のためには、合理的な
設計をすることが重要であり、講演者は複数のオプションについて設計、検討、及び試作を進めていることが報告された。
3A-a04 西村 新 (NIFS) ”シアネートエステル/エポキシ混合樹脂を用いた電気絶縁材料の中性子照射特性”
核融合炉で必要とされる耐放射線性樹脂(シアネート・エステル)の耐放射線特性について研究を進めており、その進捗が報告された。これまで明確になっていなかった反応
プロセスの解析も進めており、評価できる。本試験データは、核融合炉、加速器超電導マグネットの応用で重要であり、今後の発表で研究成果の統括がなされることに期待する。

JT-60SA 3A-a05-10 座長 柳 長門

JT-60SAトカマク装置の設計について、6件の発表があった。
3A-a05、土屋: 中心ソレノイド(CS)コイルとプラズマ平衡磁場(EF)コイルは、日本が製作を担当しており、導体の製造が順調に進むとともに、巻線の最終設計が
行われている。超臨界ヘリウム(4.4 K, 0.6 MPa, 6 g/s)が導入される導体インレット部の構造の応力解析が行われ、疲労限界に対して強度を満たすことが確認された。
3A-a06、木津: コイル給電部には、5個のターミナルボックスに合計13対の高温超伝導電流リードが装着される。JT-60SA は、常伝導トカマク JT-60U の本体のみを置き
換える計画であるため、空間的な制約が大きく、与えられた境界条件の中でターミナルボックスの熱応力緩和構造等について慎重な設計が行われている。
3A-a07、神谷:超臨界ヘリウムの供給に関して、クエンチ時の導体温度上昇と再冷却過程について GANDALF を用いた数値解析が行われており、クエンチしても数十秒で
元の温度に復帰できる結果が得られている。
3A-a08、大西: 輻射シールドについても空間的な制約が大きいが、冷却配管を二重の板ではさむ方式で自立構造としており、変位が規定の範囲に収まることが確認された。
3A-a09、村上: コイルの遮断時に、共振現象によって不均一で絶対値の大きい電圧が印加される可能性がある。EFコイルについて、ダミー巻線を用いた実験と回路シミュ
レーションを用いた詳細な解析が行われた結果、電源特性から想定される数 kHz 以下では、一様分布の場合を基準に設計できることが確認された。
3A-a10、尾花: EF 導体と CS 導体について、導体サンプルの特性確認試験が NIFS の導体試験装置を用いて実施されている。EF 導体の接続部サンプルの試験では、導体の
周りにホール素子を配置して、電流分布の不均一度が詳細に調べられた。同様の手法は、ITER の導体試験においても有効に働くと考えられる。


東日本大震災関連 3A-p01-04 座長 野口 隆志



5月20日(金)
B会場 9:45-12:00

小型冷凍機 3B-a01-03 座長 達本 衡輝

自動車用超伝導モータ冷却用の小型冷凍機の開発を目指して、圧縮部にリニアモータを採用したスターリング冷凍機の性能評価に関する研究発表があった。実用化に
必要なCOPは0.1以上であるが、まず、採用した方式により、既存のCOP(0.07)を超えることを確認したと報告があった。今後、目標COPの実現に向けた研究開発を
実施していくようだ。
東工大のグループから、ノンフロン冷凍空調機器として、磁気冷凍室樹のプロトタイプを製作し、位相制御による性能評価試験に関する報告があった。
阪大のグループからは、GM冷凍機用の磁性蓄冷材として、磁気相転移に伴う大きな比熱ピーク有するHoNを用いて実施した冷凍性能試験に関する報告があった。HoNの
5 K 以下での比熱は小さく、鉛に比べて熱伝導率も悪いため大きな改善が見られなかったが、今後、HoN粒径の微細化やPbとのカップリングによる性能向上を目指す
と報告があった。


スラッシュ流体/熱伝達 3B-a04-08 座長 中納 暁洋

5/20午前10:45-12:00ののセッションは全て東北大、流体科学研究所の大平研究室のグループによる発表で、4件はスラッシュ流体に関するもの、1件は強制対流沸騰に
関する内容であった。
3B-a04:大平 他、はスラッシュ流体の場合、正方形管の方が円管に比べ圧力損失が大きくなり、数値解析結果が実験結果と一致する旨の報告を行っていた。
3B-a05:中 他、は矩形管の場合、圧力損失にアスペクト比が大きく係ることを数値解析により予測していた。
3B-a06:大平 他、はコルゲート管でのスラッシュ窒素流動に関する実験報告であった。コルゲート管においても圧力損失低減効果が示されており実運用に対し
有用な実験データを示していた。
3B-a07:中込 他、はスタガード矩形管におけるスラッシュ窒素の実験報告で、異なる形状の管を繋げた流路構造のためコルゲート管で観測されたような圧力損失
低減効果が得られなかったという報告であった。
3B-a08:中山 他、は水平円管内を流れる液体窒素沸騰流に関する可視化観測と静電容量型ボイド率計測装置を使った実験報告で、実験データが分離流モデルと
一致する旨の報告を行っていた。


5月20日(金)
C会場 9:45-12:00

HTSコイル(2) 3C-a01-03 座長 藤吉 孝則

本セッションでは、3件の報告があった。
3C-a01:川越(鹿大)らは、高温超伝導コイルのホットスポットなどによる異常を検出するために、ピックアップコイルを用いた測定法を提案した。超伝導コイルの
外側の電界と磁界をピックアップコイルで測定することによってポインチングベクトルを測定して、その変化から巻線状態を監視する。これらの測定原理について
理論的な考察を行った。
3C-a02:小坂(鹿大)らは、超伝導変圧器の負荷変動動作時の異常を検出するために、超伝導変圧器の上下の対象な位置にピックアップコイルを設置して、それぞれ
のポインチングベクトルの差分を監視することにより、変圧器の異常を検出する方法を提案した。この手法を実際の容量500 VAの小型超伝導変圧器に適用して、実験
的に異常が検出できることを示した。
3C-a03:宮崎(東芝)らは、人工ピン入りY系超伝導線材を用いて、シングルパンケーキコイル12個をを作製して、これらを積層した含浸コイルを試作した。この
コイルの通電試験を行った。短尺の線材のIcやそのばらつきおよび磁場角度依存性を考慮することにより、広い温度領域で定量的にコイルの電流ー電圧特性を予測
できることを示した。


コイル化技術 3C-a04-08 座長 川畑 秋馬

3C-a04:宮副(東大)らは、高い磁場一様度が求められるNMRマグネットなどの巻線にY系線材が適用された場合に考慮すべき遮蔽電流の問題に対処するために、複数
枚のY系短尺線材に外部磁場を印加した実験を行い、そのときに線材に生じる遮蔽電流分布をホール素子で調べた結果について報告した。同一平面内に並列配置した
3枚のテープ線材間では相互作用が見られなかったことや、捕捉磁場の減衰は磁束密度が大きい箇所ほど大きくなったことなどを示した。
3C-a05:松本(NIMS)らは、REBCO線材を用いることで性能と利便性を大幅に向上させた次世代NMRシステムの開発研究の一環として、内径約80 mmのREBCO線材による
密巻コイルを製作し、17 T中で行ったコイルの耐電磁力試験結果について報告した。実機用コイルを想定して作製したコイル内部に接続部を有するコイルに対し、17T 中
で最大BJRが400 MPaを超える電流までコイル電圧の上昇なく通電できたことを示した。BJR値は線材断面での負担を仮定したときの値であるとのことであった。
3C-a06:大日方(東北大)らは、核融合炉の建設コスト等の低減を目的とした分割型高温超伝導マグネット実現のため基礎研究として、GdBCO線材を4枚積層した導体の
機械的バットジョイントの試験結果を報告した。バットジョイント部に印加した応力に対する接続抵抗の関係を測定した結果、接続抵抗はBSCCO2223積層導体で同様にして
得られた値よりも1桁程度大きい値となったことが示された。改良を図った接続方法による接続抵抗の低減に期待したい。
3C-a07:中村(京大)らは、Bi系とY系線材をそれぞれ5枚積層した導体の厚み方向の熱拡散率を実験および数値解析によって評価し、比較検討した結果を報告した。
得られたY系積層導体の厚み方向の熱拡散率はBi系積層導体の値と比較して4桁程度小さくなる結果が示された。この結果に関連して、実験方法におけるヒータと冷却
ステージと温度センサの設置位置に関する議論があった。
3C-a08:石井(東海大)らは、YBCOテープ線材20本を用いて2 kA級超伝導電流リードユニット10組を作製し、通電特性や熱侵入量などを評価した。電流リードユニットのIc
10組平均で2210 A、2 kAでの熱侵入量は従来のガス冷却型Cuリードと比較して約1/10になったと報告した。10組の電流リードユニットのIcのばらつきは、使用した素線自体
Icのばらつきの他にハンドリングによるIcの劣化が原因であるとのことであった。


5月20日(金)
D会場 9:30-12:00

Y系線材作製 3D-a01-04 座長 戸坂 泰造

3D-a01 五十嵐(フジクラ): IBAD/PLD法RE線材の性能向上に関する報告があった。Jcとその均一性に関しては、基板洗浄などにより大きな改善が見られた。
長尺化に関しては、世界記録が更新された。また、金属基板を薄くした線材(75 μmt、50 μmt)も従来と同等の性能が得られた。なお、次回以降、剥離強度など
信頼性について報告するとのこと。
3D-a02 町(超電導工学研究所): レーザスクライビング法によるY系超電導線材のマルチフィラメント化について報告があった。ヒステリシス損失だけでなく、
カップリング損失も低減させるため、フィラメント間抵抗を確保しつつ、数百mの長尺線材を3分割した。欠陥が少ない線材であれば、分割後の劣化はあまりなく、
ヒステリシス損失は元の線材のほぼ1/3となった。剥離についての質問があったが、評価はできていないが、今後評価したいとのこと。
3D-a03 本田(住友電工): フッ素フリーMOD法YBCO線材のIc改善のための厚膜化についての報告があった。塗布から本焼までの工程を6回繰り返し、YBCO
膜厚が4.7 μmでIc=254 A/cmを得た。今後はJcの向上も目指す。Jc向上のための手段についての質問に対しては、基板の配向度を改善するとの回答。
3D-a04 笠原(古河電工): CVD法GdYBCO線材のZrドープによる磁場中特性の改善について報告があった。ドープ量を変えて作製したサンプルの断面TEM
観察により、Zr量が少ないときにはBaZrO3結晶がドット状に存在していることがわかった。ドープ量が2 mol%の場合の磁場中特性が最も良く、全角度でIcは向上
した。質疑応答において、BaZrO3結晶は柱状のものが様々な方向を向いているのではないか、との指摘があった。


交流送電 3D-a05-09 座長 雨宮 尚之

このセッションでは、5件のうち4件が、NEDOによるイットリウム系超電導電力機器技術開発の成果に関するものであった。特に、3D-a05:大屋(住友電工)と
3D-a09:野村(古河電工)においては、交流損失に関してプロジェクトの中間目標値を達成し、平成23-24年の残る2年において長尺ケーブルを設計・製作する目処が
立ったことが報告されていた。ただ、これらの成果は低交流損失化という点で、イットリウム系線材の利点を十分に引き出しきれておらず、そのポテンシャルを活用
する意味で、3D-a05:大屋(住友電工)において言及されていた極低交流損失化技術の研究開発が期待される。3D-a06:大野(東北大)においては、3相同一軸超電導
ケーブルの交流損失低減について電流不平衡の点から議論がなされた。今回の発表はビスマス系線材を用いたケーブルについての解析結果についてであったが、
イットリウム系線材ではビスマス系線材と交流損失を支配する要素に違いがあるので、今後、イットリウム系線材を用いたケーブルにおいても同種の解析が行われる
ことが期待される。3D-a07:琴寄(早大)、3D-a08:王(早大)においてはイットリウム系ケーブルにおける過電流特性についての研究成果が報告されていた。特に、
3D-a07:琴寄(早大)においては、過電流通電時の劣化と線材の熱変形の関係が議論され興味深いものであった。